ミネラルタウン**クレア(ハーベスト)&クレア(ミネなか)

夢か夢でないか


「クレアさん」と私は自分の名前を呼んだ。
 その呼びかけに彼女は振り向く。
 目の前にいるのは私と同じ色の髪をしていて、だけども彼女のほうが一回り年上で、背が高くて、とてもきれいな女の人だ。
「なあに、クレアちゃん」
 視線を合わして彼女は言う。
 呼んでみただけです、と私は舌を出す。
 彼女の存在を確かめるかのように、私はもう一度だけクレアさんと口のなかだけで呟いた。

 私とよく似た容姿であるクレアという名前の女性。
 そばにいるとまるで自分が彼女の模造品になってしまったようで、私はいったい何者なのだろうと思った。
「嵐の海に投げ出されて、よく助かりましたね」
「小さいころから運は強いの」
 それはクレアさんがここにたどり着いた経路。
 その話を初めて聞いたとき、私は思わず呟いてしまった。
「ロマンチックだ」
 少なくとも都会の生活が嫌で逃げ出して格安で手に入れたはずの牧場が実は詐欺でした、なんていう私よりは。
「あら、別の世界にくるってのもロマンチックじゃない?」
 並行世界という言葉が私たちの共通の認識だった。
 クレアが二人いるという事実以外は私が元いたミネラルタウンとまったく同じだったし(もっとも住民の彼らが知っているクレアはクレアさんだ)、年代も多少のズレがあるにしろ、ほとんど同じだった。
 しかし私はばかみたいだとその考えを取り消していた。
 きっとこれはただの夢なのだ。

 結局私はその世界に一週間ほど滞在していた。
 まだ一ヶ月も経っていない私の牧場とは違って、クレアさんの牧場はとても牧場らしかった。
 三年前は荒地だったというのだから、私と同じ条件だ。
 でも私は三年後ここまで同じように立て直す自信はない。
 その日の夜、私はクレアさんと同じベッドへともぐりこんだ。
 ベッドはひとつしかなかったし、私は布団がないと眠れないほどの都会っこだった。
 クレアさん、と私は自分の名前を呼んだ。
「あなたのことが羨ましいです」
 同じクレアなのに、なぜここまで違うのだろう。
「そうなの?」
 少しだけうれしそうにクレアさんはくすくすと笑った。
「でも私はあなたのほうが、私よりずっと好きよ」
 私はなぜかひどい眠気に襲われていた。

「おやすみなさい」
 その言葉を遠くに感じながら、私は消えるようにその世界からいなくなった。


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