ミネラルタウン**クレア&マリー
長い爪
軋み音を立てて扉が開く。
その人物を見て、マリーは微笑んだ。
「クレアさんいらっしゃい」
「ひさしぶり。元気だった? 今日はね、たけこのがたくさん取れたんでお裾分けに来たの」
そう言って両手に持ったかごの中はたけのこだけではなく、春の山菜でいっぱいだった。
「いつもありがとう。私のお母さんもいつも喜んでいるよ。ああ、そうだ。頼まれていた雑誌届いているよ」
「うそ、本当?」
そしてクレアはたけのこをつくえに置くと、その雑誌を受け取った。
それは都会のほうでは結構有名なファッション雑誌だ。
クレアは家に持って帰るのが待ちきれないように開いて眺めるが、マリーにはどこがそんなにおもしろいのか分からない。
たしかに興味はあるし、ときどき購読もしているが、きっと今のクレアほど楽しそうには読んではいないだろう。
「あ」
とクレアは声をあげる。
そしてきれいに本にかかっているゴムをはずすと、それをマリーのほうに差し出した。
「これ、マリーにあげる」
「なにそれ?」
「雑誌の付録。ネイルチップとマニキュア。ほら、私牧場の仕事あるから、こういうことあまりできないんだよねー」
そう苦笑しながら付録の袋ごとそれを手渡される。
手渡されたときに見えた彼女の手はたしかにおせじにもきれいとは言えない状態だった。
「あ、せっかくだけど、私そういうのしたことないから……」
それは本当だった。
第一図書館の司書として働いている分には、あまりに長すぎる爪はむしろ邪魔だと思ってしまう。
「嘘! もったいない! マリーの手白くてきれいなのに」
手が荒れていないのは。ただ単に日中のほとんどをこの図書館ですごしているからだ。
クレアはなにかを思いついたように、自分の両腕のシャツをめくった。
「マリーのツメ、いじらせて」
なにかを言い返すまもなく、クレアはマリーの両手を手にとった。
ひとつひとつチップをマリーのツメにあわせていくと、マニキュアで塗っていく。
シールを貼ったり、花の模様を描いたり。
サンプルでしかないそれは全部バラバラの端数しかない。
さっきからしゃべっているのはクレアだけだ。
マリーはただ魔法のように作られていくネイルを黙ってみている。
「できた!」
マリーは自分の手をみてみる。
思わず感嘆の声をあげて、クレアをみた。
「わあ! すごいクレアさん!」
「でしょ?」
自慢げにクレアは笑った。
いつのまにか日は暮れていく。
彼女が帰ったあとも、マリーは手を光にかざしてみる。
長い爪の向こうが、少しだけ透けて見えた。
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