ミネラルタウン**クリフ×クレア

おふくろの味


 テーブルの上にみそ汁や焼き魚、漬物などの和食が二人分並べられていた。
 真ん中にはそんなメインデッシュとはとてもじゃないが不釣合いなケーキとワインが乗っている。
「聖夜祭に和食ってのもなかなか乙じゃない?」
 そう言ったのはクレアだった。
 クリフはそうかもね、と言って軽く笑った。
 机の上にあるそれらは全てクリフの好物である。クレアがわざわざ合わせてくれたのだ。
 クリフは配膳されたみそ汁に口をつけた。
 クレアはその様子をじっと見つめる。
「どう? おいしい?」
「うん。すっごく」
 正直に言うとクレアはとても嬉しそうに笑った。
「よかったー」
 そしてクレアは自分の分を食べ始める。
「うん。今日は特別上手にできたかも」
「いつもは下手なの?」
 少しイタズラ心が湧いてそう訊ねてみる。
「う。うるさいな。だって都会に居たときは自分で作ることなんてしなかったもの。今日みたいな日だけに上手くできたらそれでいいの」
 そしてクレアはほどよく焼けた魚に手をつけた。そのまま口に箸を含んだ状態で不安そうになって訊く。
「……あ、もしかしてさっきのおせじだった?」
「ううんそんなことない。十分おいしいよ」
「十二分に満足してもらわないと私のプライドが許さないのよねー」
 そんな雑談を交えながら食事は進んでいく。
「……似ているな。母さんの作った料理と」
 少しどこか懐かしい味がして、クリフは思わず呟いた。
「へへ。クリフが居た町って海のない町だったんでしょ? だから山のものを中心にして作ってみたの。魚も海じゃなくてマザーヒルの湖で釣った奴」
 クレアはどうやって調べ上げたのか町の人たちの好きなものや嫌いなものを全て把握しているという。
 その噂はあながち嘘ではなかったらしい。
 するどい観察力にクリフは関心し、それと少しの不安を覚えた。
 いつかは自分の過去を全てを話すことになるのだろうかと。
「なに? クリフ」
 いつのまにかクレアと目が合っていた。
 向かい合って座っているのだからそんなに不思議ではないのだが、クリフは少し驚いて思わず目を逸らしてしまう。
「いや……なんでもないよ」
「そう? みそ汁のおかわりいる?」
「うん貰う」
 クリフのポケットの中には青い羽がある。
 まだ渡す勇気は今の僕にはない。
 自分の全てを見せれるその時まで、それはお預けにしておく。
 だからもう少しだけ。
「ねえ、待っていてくれる?」
 そうキッチンのほうに向かって歩いているクレアに投げかけた。
 クレアは振り向く。少し不思議そうな顔をしていたがなにを、とは聞かなかった。
 そして彼女は指定の、笑顔を見せた。


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