黒クリフ同盟へ贈るクリフxクレア小説。
暗算少年
クレアは机の上にあるそれとにらめっこをしていた。
数秒の時間を置いてそれにクレアは何かを書き込み、またそれをにらみつけるように見る。
それを何度か繰り返していると、クリフが後ろから机の上にあったそれをひょいと取り上げた。
「まだ終わらないの?」
「ちょっと! やめてよ!」
クレアは抗議をするが、クリフは聞く耳を貸さない。
取り上げられたのは牧場の売り上げ等を書き留めた紙。
紙の隙間を埋めるようにして筆算の跡が見られる。
「こんなのいちいち書いてるの?」
計算が得意なクリフにとって、たかが足し算引き算で悪戦苦闘することは理解の外にあるらしい。
「うるさいわね!」
クリフが二秒で出せる答えをクレアは二十秒かかる。
それは別にいいのだ。人それぞれ向き不向きと言うものがある。くやしいとは思わない。
だからそれを書くのに手間取ってクリフとの約束をすっぽかし、クリフが待ちきれなくなって牧場にやって来て、それからまだ一時間経っても終わらないのは問題だった。
なんだってこんなに量が多いんだと思う。
加算減算の単純な物だが、計算が苦手なクレアにとってそれは一日牧場の仕事をしているより大変な仕事だった。
とっとと早く終わらせようとクリフから紙を取り返そうとし、その資産表は手に押し付けられるような形で戻された。
クレアが怪訝そうな顔をする。
「もう飽きたの?」
非道い偏見だが、そうでなければこのクリフがあっさり紙を返してくれるわけがない。
「やっとマザースヒルに行けるね」
「これが終わったらって言ったでしょ?」
「もう終わった」
「嘘!」
クレアが紙を確かめる。
そこにはいつのまにかクリフの筆跡で数字がつけたされていた。ついでにクレアが計算ミスしたらしい部分も直されている。
「嘘よ嘘! 嘘吐き! こんなに早くできるわけないでしょ?」
「じゃあ答え合わせしてみる?」
そう言われてクレアはクリフがやった部分の一部を答え合わせしてみた。
正解。
クレアはため息をつく。
全ての計算を暗算で済ませられるクリフと、簡単なものの筆算でさえミスが多いクレア。
それは数字の話に限らず日常生活でも同じだ。
いつもクリフは上手で、
「クレア」
「なに?」
そんな奴に惹かれていたりするのは紛れもない自分自身なのだが。
「好きだよ」
「…………」
それは絶対仕組まれてることなのだろう。
私が彼に恋することは、彼によって計算されていたことなのだ。
いや、もしかするとそんなこと考えてないかもしれない。無意識下の暗算なのかもしれない。
とにかくこいつはかなりのくせ者である。
それでも私は、
「返事は?」
「……私もだよ」
彼のことが好きなんだろう。
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