カレン祭り様へ贈る男主人公xカレン小説。


 彼とカレン


 否定してほしくてそんなことを言うのだろうなと、カレンは自分で思った。
 そして事実、ここを訪れる旅人や観光客は決まってこういう。
 住めることなら一生住みたいよ。
 それがただの住民へ向ける口上だと知っていても、カレンは安堵するのだ。
 だけど彼の答えは違った。
「そうだな」
 驚くカレンをよそに、彼は子供じみた笑顔を浮かべる。
「カレンがここを出て行くのなら、考えないでもない」
 ようやく言葉の意味を理解したカレンは。
「バカじゃないの?」
「最高の褒め言葉です」

どうせ出て行くんでしょう?



「世の中も便利になったよね」
 彼が呟く。
 なんの前置きもなく語りだすのは彼のくせで、カレンは特に驚きもせず言葉を返す。
「なにが?」
「口下手な人間でも、簡単に思ってること伝えられるような仕組みができたんだから」
 そして差し出したのは青い羽根。
 カレンは冷めた目で見ながら。
「世の中も便利になったわね」
「でしょ?」
 それを受け取った。

心に描くはかない思い



 夢の内容は覚えてない。
 ただひどく目覚めが悪かった。
 そして、目覚めた後も。
「……なんであんたがここにいるの?」
 カレンが言う。
 ここは自分の部屋で、誰も入れないように母さんに釘さしているはずなのに、彼がここにいた。
「お見舞い」
 りんごの皮をナイフで器用に剥きながら、彼が答える。
 風邪を引いて寝込んでるところなんて絶対に見られたくなかったのに。
「大丈夫?」
「だったら寝込んだりしないわよ」
「だよね」
 剥き終わったりんごのかけらを口に放りこまれた。
「じゃあお大事に」
 カレンがなにか言う前に、彼は階段を下りていく。
 やっとのことでりんごを食べ終わると、
「なによあいつっ!」
 叫んだ。
 ふとカレンがテーブルを見やる。
 テーブルの上には残りのりんごと、彼の忘れ物があった。
 それはいつも彼が被っている青い帽子。
 外は朝から雨が降っているというのに、その帽子はほとんど乾いていて。
「……いつから居たのよ」
 ため息がでた。

僕はここにいるよ



 荷物を一つのトランクにまとめる。
 お気に入りの服に、こまごまとした日常用品に、酒場のアルバイトで稼いだお金に。
 ふと目に留まったのは彼から貰ったオルゴール。
 開くとどこか懐かしい音色が部屋を満たす。
「月の下でおどろう、か」
 カレンはその曲の名前を呟く。
 そして。
「やっぱりあいつだよね」
 それは子供の頃の色褪せた記憶。
 決めたはずの心に、波紋が揺らいだ。

決断の時



 彼は今年の王様だった。
 だから花祭りで女神様役に選ばれたカレンと踊ることは必然だったのだけど。
「ねえ、仕組んでない?」
「まさか」
「よく言うわ。あなたが来てから毎年私が女神様の役やってるのよ?」
「仕組んでるって言わないよ。一票でどうにかなるものじゃないでしょ、それ」
「それがなるのよ。町のみんなは毎年同じ子に投票していて、いつもそれぞれの子に同じだけの票が集まるんだもの。だからあなたが来る前は結局またくじで決めていたのよ」
 それを聞いた彼は嬉しそうな表情になる。
 言うんじゃなかったとカレンは思った。
「じゃあ王様の時はカレンに、そうじゃない時は他の子に投票すれば必ず一緒に踊れるわけだ」
「王様でなければ断ってるわよ、バカ」

一緒に踊ろう



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