吹夏様へ贈るカイxクレア小説。
祝い品
どうしたものかとカイは思う。
なにしろひっきりなしに人がやってくるのだ。
あれか。小さい町だからこんなことでも一番の話題になったりするのか。
玄関で談笑をしている昨日からの我妻、クレアをちらりと見やってカイはテーブルにつっぷした。
結婚式なんて珍しくないだろうとカイは思ったが、ミネラルタウンの若者の中では一番に結婚していたことを思い出した。ついでにクレアは町の人気者である。嫌われ者のカイ――男限定にだが――との結婚は話題になるはずだ。
そのままぐたりとしていると、ことんと音を立てて目の前にマグカップが置かれた。
「おつかれ」
顔を上げるとクレアがそこに居た。
最後の客がようやく帰ったらしい。
「さんきゅ」
礼を言い、カイはそれに口をつける。そして昼飯を忘れていたことを思い出し、一気にそれを飲んだ。
「……腹減った」
「私も」
そう言ってクレアはクスクスと笑った。カイもつられて顔が緩む。
やっぱりこうだよな。ハネムーンは牧場の経営があるからしかたないとしても、今ある時間は二人で水入らずで過ごしたいよな。
カイはクレアの肩に手を回しキスしようとして、
「おーい」
グレイの声が聞こえた。
あいつタイミング悪すぎ。
そもそもグレイは昼間に来たはずだった。
忘れ物をしたせいで二度も戻ってきたので覚えてる。
とりあえずカイは慌てて出迎えに行こうとするクレアを制し、
「俺が行くから。夕飯作ってて」
グレイを出迎えに腰を上げた。
ドアを開ける。
「あ、カイ?」
「なんのようだよ。内容によってはキレるぞ」
「いや、俺の用じゃないよ。マリーに頼まれたんだよ」
「マリー? あれ、まだ来てなかったっけ?」
アンナとバジルはきちんと訪問していたので、カイが見かけなかっただけだと思っていたのだ。
グレイはカイの呟きを無視して、ラッピングされた包みを押し付けるようにして渡した。
「これ、渡しておいてくれって」
包みの形と重さでそれが本だということが分かった。
「一応結婚祝いのつもりだと思うんだけど」
グレイは一度言葉を区切った。そして真面目な顔で、
「俺のせいじゃないからな」
「は?」
「それじゃ」
「おいちょっと待てよ」
そう言い終わるか終わらないかのうちにグレイは走り去っていった。
自分で言ったセリフの説明くらいしていけと思ったが、そういえば。
宿屋の門限は九時だった。
あいつは律儀に守ってたんだっけと随分と昔に感じる宿屋泊まり時代を思い出した。
カイはいつも割り当てられた部屋の窓をこっそり開けていたので、門限など気にしたことなかったが。
ふと包みが気になってラッピングペーパーを破くようにして中身を取り出した。
中は予測した通りのハードカバーの本で、本の上に一枚のカードがあった。カードには結婚おめでとうの旨の文章が書かれている。
そしてそのカードを避けてタイトルを黙読し、思わず絶句した。
「カイ? グレイなんの用だった?」
キッチンからクレアの声が聞こえた。
「マリーの結婚祝いの物届けに来てくれた」
カイは扉を閉じながら答える。
「良かったじゃない」
「いや」
怪訝そうな顔をするクレアを無視してカイは本のタイトルを読み上げる。
「『最高の名前が見つかる! 子供につけたい名前辞典完全版』」
クレアは何も言わない。
いや何を言えばいいのか分からないでいるのか。
気まずい空気が辺りを漂う。
「どうしよう?」
沈黙に耐えかねてカイは思わずそんな言葉を口走ってしまった。
答えようがないだろと心の中で自分を責める。
クレアは少し困ったような顔をして、しかしそれすらを楽しんでるような声で、
「どうしよう?」
聞き返した。
もどる